H-RISE 公益財団法人北海道科学技術総合振興センター 幌延地圏環境研究所

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H-RISE 公益財団法人北海道科学技術総合振興センター 幌延地圏環境研究所

幌延ライズとは
公益財団法人
北海道科学技術総合振興センター
H-RISE 幌延地圏環境研究所
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令和元年度

 幌延地圏環境研究所は,第二期長期計画のもとで地下微生物を活用した地層内メタン生成に関する研究を推進してきている。第二期長期計画期間は平成24年度からの9年間であり,3年単位の三つのフェーズ(フェーズ4〜6)ごとに中期的目標が設定されている。フェーズ6(2018〜2020年度)では,道北地域の堆積岩を対象として地層内バイオメタンの生成プロセスとその制御方法を解明するとともに,本研究所が提案したSCG法(Subsurface Cultivation and Gasification; バイオメタン鉱床造成/生産法)の適用性を検討して,その改善点を抽出することを目標としている。そこで,令和元年度(2019年度)は,三菱マテリアル(株)との共同研究により,同社が鉱業権を有する天北炭田小石鉱区においてSCG法の原位置試験を実施した。原位置試験は,地下微生物環境研究グループ・地下水環境研究グループ・堆積岩特性研究グループの全員の共同体制で実施したことから,以下では,まず,原位置試験の概要と現在までに得られた成果をまとめ,その後に,それぞれの研究グループごとの課題と研究成果を記すこととした。

原位置試験は,天北炭田小石鉱区の褐炭層を対象として2019年7月に開始した。試験サイトでは3本のボーリング孔(H30-4, 5および6)を掘削し,岩石コアのサンプリングや採水を適時実施するとともに,揚水試験や水質モニタリングなどにより原位置褐炭層の性状と地下水状態を把握した。特に,透水係数は1.1〜2.0×10-4 cm/sであり,地下水組成は海水よりも塩濃度が50〜100分の1程度のNa-HCO3型の淡水であることがわかった。また,ガスおよび水質の長期モニタリングと原位置微生物培養を行うための多目的プローブを製作するとともに,冬季用の自動計測システムを構築・運用している。2019年11月までの結果によると,孔内地下水の水質は掘削後数カ月で嫌気的環境への遷移が認められている。

 次に,研究グループごとの研究課題と成果は次のようである。
地下微生物環境研究グループでは,小石鉱区の2本のボーリング孔(H30-4孔およびH30-6孔)に採水装置を設置して,原位置地下水の採水を行い,地下水中の微生物叢の初期状態把握を試みた。また,上記孔井を活用し,褐炭を炭素源として成長する微生物の探索と,固相である褐炭に付着する微生物叢の解析を目指した原位置微生物培養試験を開始した。これと並行し,小石H30-4孔およびH30-6孔地下水を微生物接種源として用いて,SCG法の適用を想定した培養実験および各種炭素源を添加した室内実験を開始した。また,腐植物質分解能のある微生物群集Sal-4から,単独で腐植物質分解能のある微生物の単離を試み,数個の有望な微生物株を得ることができた。今後,単離株を用いると腐植物質からメタン生成へ至る培養実験が容易になることが期待される。さらに,過去にJAEA幌延URLの地下水より単離した新規微生物について性状解析を実施し,新たな機能の探索を行っている。
 地下水環境研究グループでは,小石鉱区試験サイトで得られた孔井水とコア試料,釧路コールマインで得られた岩石試料,浜里地区のボーリング孔から採取された地下水および岩石の試料を対象とした研究を展開した。小石現場試験では,孔井水中の溶存メタンや褐炭コア試料の吸着メタンの炭素同位体比を測定し,これらは微生物起源であることを明らかにした。また,釧路コールマインの炭層中のカルサイトは,その炭素同位体比から,メタン菌の生息環境で析出したことを明らかにしている。浜里ボーリング孔から採取された地下水と岩石のヨウ素濃度は相関関係にあったが,その同位体比には相関が認められず,ヨウ素の同位体分別の可能性が示唆された。さらに,小石鉱区ボーリングコア試料の褐炭を対象として,0.3%過酸化水素水を用いた温度50℃での加速反応試験を実施している。
 堆積岩特性研究グループでは,原位置岩盤の浸透率特性を評価するために,3本の試験孔で揚水試験を実施した。揚水試験では,孔内投入型のポンプで揚水し,流量は大型電子天秤で計量し,孔内の水位は投入型の水位計を使用した。また,原位置褐炭層への過酸化水素水注入をシミュレートする室内実験系の構築を試み,採取された岩石コアを用いて加圧状態下での過酸化水素水注入試験を実施するための試験装置を整備した。