H-RISE 公益財団法人北海道科学技術総合振興センター 幌延地圏環境研究所

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平成28年度

 平成28年度は,地下微生物環境研究グループ・地下水環境研究グループ・堆積岩特性研究グループのそれぞれにおいて地層内バイオメタン生成に関してフィールド科学と要素技術開発に関する複数の研究課題を設定して研究を実施した。平成28年度の研究の概要は以下のようである。
 地下微生物環境研究グループでは,幌延深地層研究センター地下施設の珪藻泥岩層を対象とした微生物群集構造解析の継続調査とともに,天北炭田猿払地区の褐炭層地下水中の微生物群集構造解析を新たに実施した。特に本年度は,昨年度に設置した採水装置の問題点を克服・改善し,地下水サンプリングを嫌気的な条件下で行うことができる新規採水システムの運用を行った。改良した採水装置を用いることにより,人為的な要因による地下水サンプルの酸素への曝露の影響を最小限に抑えながら,地下の原位置に近い状態の地下水の採取が可能であることが分かった。次に,地層内のメタン生成プロセス研究のための原位置を模した培養モデルに関して,原位置温度を反映させた改善を行った。その結果,培養温度が低くなるにつれてメタン生成量と速度が低下する傾向があること,培養温度の違いにより微生物群集構造に差が生じることが明らかになった。さらに上記知見に加え,培養液に添加した固相がメタン生成に影響を与えることから,原位置実験モデルの開発には固相の選択は重要であることが分かった。地層内のメタン根源物質の中間代謝物質の分析については,熱分解-GC/MS分析により,嫌気条件下での微生物の培養で腐植物質中の単環芳香族部分が分解されることを明らかにした。
 地下水環境研究グループでは,天北炭田猿払地区の地下水の溶存メタンの同位体比等の分析を行い,同地区内のメタンは天水の浸透にともない形成された微生物起源メタンであることを明らかにした。また,道東地域の高濃度メタンを胚胎する白亜紀層に関して,白亜紀層および上部の炭層に付随する炭酸塩鉱物の炭素および酸素同位体比を測定し,炭層におけるメタン生成微生物の活動は,炭層が温度70℃未満の地表浅部に上昇する過程で活発化したことを示した。さらに,地下圏における水素生成メカニズムに関して,ヒドロキノンを用いた室内実験を実施し,水素生成量はpHに依存することなどを明らかにするとともに,道北地域の既存の温泉井から採水した温泉水を分析し,高濃度のヨウ素と溶存メタンが共存することや,これらメタンの起源は微生物起源と有機物の熱分解起源の両者にまたがることなどを明らかにした。次に要素技術開発に関して,褐炭と過酸化水素との反応のpH依存性を調査し,pHの上昇にともない褐炭から生成される有機酸量が減少する傾向を明らかにするとともに,亜炭,亜瀝青炭および瀝青炭と過酸化水素との反応性についても調査し,石炭の熱熟成度が低いほど過酸化水素との反応速度が上昇することを明らかにした。
 堆積岩特性研究グループでは,地層中でのバイオメタン生成時の堆積岩力学特性を解明することを目的として,褐炭を対象とし種々の物理・化学・力学試験を実施した。特に,褐炭の物理特性評価として,超音波パルス法による弾性波速度測定,非破壊蛍光X線分析による元素分析,一次元透水試験による透水性測定およびマイクロフォーカスX線CT装置を用いた褐炭構造の可視化計測などを実施し,力学特性評価として一軸圧縮試験を実施した。特に,褐炭中のクリート発達方向に着目し,異方性の及ぼす影響について検討している。さらに,過酸化水素による有機物分解促進を考慮して,褐炭の有機物分解時における力学特性に関しても検討を加えた。次に,堆積岩層におけるバイオメタン生産技術開発に関しては,原位置試験の設計資料を得ることを目的として,原位置の堆積環境を模擬し,過酸化水素により堆積岩中の有機物分解を促進させ,溶媒の経時的な化学特性や堆積岩の物性変化などを実験的に検討した。対象とした堆積岩試料は,露頭より採取された褐炭および天北炭田猿払炭鉱ボーリングコアより採取された褐炭である。